企業や個人がこれらのリスクから身を守るためには、効果的なリスク回避策の実施が不可欠です。リスク回避は、リスク対応手法の一つであり、リスク低減、リスク移転、リスク保有といった手法と比較して、リスク自体に接触しないため、リスクが発生しない状態を目指す点が特徴です。
INDEX
リスク回避とは、情報セキュリティ上のリスクが発生する状況や行為を事前に特定し、それらを避けることでリスクへの接触を防ぐ対応手法です。
例えば、セキュリティリスクが高いソフトウェアやサービスの利用を避けたり、古いシステムの運用を中止するなどがリスク回避の具体的な手法です。これにより、潜在的なリスクへの接触を最小限に抑えることが可能になります。
近年高度化しているサイバー攻撃を未然に防ぐために、リスク回避は重要です。
例えば、サイバー攻撃により情報漏洩が発生した場合、下記のような被害を被ります。
リスク回避はこのような事態を未然に防ぎ、企業の存続と発展に寄与します。
情報セキュリティにおけるリスク回避は、リスクが発生する可能性のある状況を事前に避けることを目的としています。
具体的には以下のようなシチュエーションでリスク回避が必要です。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
危険なソフトウェアやサービスの使用は避けましょう。
海賊版ソフトウェアや信頼性の低い外部ツールはマルウェア感染のリスクを高めてしまいます。
これらを使用しないことが基本で、MicrosoftやAdobeの製品は正規版を利用し、信頼性の高いサービスやソフトウェアを選択することが重要です。
不要な外部ネットワーク接続も避けましょう。
業務に関係ない外部ネットワークへの接続は、情報漏洩やマルウェア感染を引き起こすリスクがあります。
これを回避するためには、不要な接続を制限し、VPNを使うことで通信を暗号化し、安全な接続を確保することが推奨されます。
古いシステムのまま運用継続することもリスクがあります。
サポートが終了した古いシステムやソフトウェアは、セキュリティパッチが提供されず、脆弱性を突かれます。
これを防ぐためには、定期的なシステムの更新や、古いOSを最新のものにアップデートすることが必須です。
リスク対応手法とは、組織が直面するリスクに対処するために選択するアプローチです。情報セキュリティやリスクマネジメントにおいて、一般的に以下の4つの手法があります。
それぞれの手法とリスク回避の違いを見ていきましょう。
リスクが発生する状況や活動を避ける リスクの発生確率や影響を抑える
危険なソフトウェアを使用しない セキュリティパッチを適用する
リスク自体に接触しないため、リスクが発生しない状態を目指す リスクを減少させるが、完全にはなくならない
選択基準
・リスク回避は、リスクが重大で、活動自体をやめる選択が現実的な場合に用います。
・リスク低減は、リスク回避が難しい場合や、業務効率を維持しつつリスクを軽減したい場合に適しています。
リスクにつながる活動を避ける リスクによる損害を第三者に移す
外部ネットワークへの接続を制限する サイバー保険に加入する
コストは抑えられるが、業務の柔軟性が下がる可能性がある コストが発生するが、リスクを自社で管理しなくてすむ
選択基準
・リスク回避は、自社でコントロールできる範囲でリスクを避ける場合に選択します。
・リスク移転は、リスク管理を外部に委ねたい場合や、損害の補償を確保したい場合に適しています。
リスクにつながる状況を避ける リスクを受け入れ、そのまま運用する
古いシステムの利用を停止する 軽微なリスクに対して特別な対策を講じない
影響を回避できるが、業務効率が低下する可能性がある コストはかからないが、リスクは残る
選択基準
・リスク回避は、リスクの影響が大きく、避けることで安全を確保したい場合に選びます。
・リスク保有は、影響が軽微で、コストや手間をかける必要がないと判断される場合に適しています。
起こりうるリスクに対して、どのように対応していくかを4ステップに分けています。
それぞれ見ていきましょう。
まず、リスクの特定・評価においては、自然災害、サイバー攻撃、人的ミスなど、あらゆる角度からリスクを洗い出すことが重要です。
リスクマトリックスを用いて、それぞれのリスクの発生確率と影響度を可視化することで、より客観的な評価が可能になります。リスクアセスメントと呼ばれる手法を用いることで、より体系的なリスク評価を行うこともできます。
次に、リスクの優先順位付けを行い、最もリスクが高いものから対策を講じます。
リスク許容度を設定することで、組織として許容できるリスクの範囲を明確にし、対策のレベルを決定します。リスクが高いほど、より早急かつ強力な対策が必要となります。
リスク対応手法(リスク回避、リスク低減、リスク移転、リスク保有)を導入します。
「3. リスク回避とその他のリスク対応手法の比較」で前述したように、それぞれの対策の特性を理解し、状況に応じて最適な対策を選択することが重要です。
最後に、定期的な見直しと改善が不可欠です。ビジネス環境は常に変化するため、リスク評価を定期的に実施し、新たなリスクの出現に対応する必要があります。
また、実施した対策の効果を評価し、必要に応じて改善していくことで、より効果的なリスク管理体制を構築することができます。
リスク管理は、経営層から現場の従業員まで、全社的な取り組みとして推進されるべきです。全員がリスク意識を持ち、常に注意を払うことで、組織全体の安全性を高めることができます。
リスク回避は、企業の安定的な成長に欠かせない要素ですが、その実践にはいくつかのポイントと注意点があります。
過度なリスク回避は、業務の効率を低下させる可能性があります。例えば、全ての情報へのアクセスを制限してしまうと、業務に必要な情報の共有が滞り、生産性が低下する恐れがあります。
リスクと効率のバランスを考え、業務に支障が出ない範囲でリスク対策を講じることが重要です。
セキュリティ対策には、システム導入や人材育成など、多額の費用がかかる場合があります。
費用対効果を考慮し、自社の状況に合った最適な対策を選ぶ必要があります。最新のセキュリティ対策を全て導入すれば万全というわけではなく、コストに見合わない対策をしてしまう可能性もあります。
リスク回避策の効果を最大限に発揮するためには、全従業員がリスク回避の重要性を理解し、行動に移せるよう、教育と啓発活動が不可欠です。
定期的なセキュリティ教育の実施や、具体的な事例を用いた研修など、従業員の意識改革を促す取り組みが求められます。
情報セキュリティにおけるリスク回避は、企業の存続と発展に不可欠な要素です。
リスク回避は、リスク対応手法の一つであり、リスク低減、リスク移転、リスク保有といった手法と比較して、リスク自体に接触しないため、リスクが発生しない状態を目指す点が特徴です。
リスク回避を成功させるためには、業務効率とのバランスを考慮し、コスト対効果の高い対策を選択することが重要です。全従業員がリスク回避の重要性を理解し、行動に移せるよう、教育と啓発活動も不可欠です。
リスク管理については、経営層から現場の従業員まで、全社的な取り組みとして推進されるべきです。全員がリスク意識を持ち、常に注意を払うことで、組織全体の安全性を高めていきましょう。
このナレッジの監修者
結石 一樹 KEISHI KAZUKI
株式会社スリーエーコンサルティング 執行役員。
ISO・ISMS・Pマークに関するコンサルティング歴10年、担当企業数380社以上。
大手企業や上場企業のサポート経験が豊富。
効率的で効果的な認証取得はもちろん、運用のマンネリ化や形骸化、ダブルスタンダード化などの問題解決に日々取り組んでいる。